阿佐ヶ谷どうでしょう。

阿佐ヶ谷のディープな飲み屋~88箇所を巡ります。

ラ・メゾン・クルティーヌ


センセイのコメント

Kさんのコメント


42軒目。

このサイトで阿佐谷88カ所巡りを初めて早や幾歳、当初は毎回場所を変えれば2年ほどで完遂すると甘く見積もっていたが、ハヤトが大阪に転勤になってからは相方を探すのに四苦八苦。

とくにある程度値の張る店が難しい。つきあってくれて、なおかつ私と異なる視点や趣味、知識で記事を書いて下さる方がなかなか見つからない。

ところが、ついに大型新人を発掘したんである。Kさんは40代。仕事のストレスはもっぱら阿佐谷の高級店でマニアックに飲食することで発散してこられたらしい。顔は知っていた。「かわ清」でカウンターの端と端に座り、距離はあったものの話題が合ったので話し込んだことがあった。

その件はさっぱり忘れていたんだが、「コットン・ワゴン」という、美食というよりビンボーの話が似合う泥酔系バーで再会。ジビエを食わせる店があるとKさんが言うので、ふたたび盛り上がったのだった。

それが「クルティーヌ」。阿佐谷駅南口を右方向に進むと富士蕎麦の右に小道があり、しばらく行くと左手に「猪八戒」のある「銀杏小路」があるが直進すると突き当たり、右に「スマイル・ホテル」のある角の左。フレンチ・レストランだ。

以前、「チャンピオン」のあった暗いビルを改装した、ピカピカのビルと言えば古い住民には分かりやすいかもしれない。

ちなみにこのKさんがただ者ではないことは、私に教えてくれた「今年にクルティーヌに特注したジビエ」が次のようなラインアップだということからもお分かりいただけよう。

※ペルドロー(山鶉)のロティ山葡萄ソース、
※鹿児島産日本鹿のアッシ・パルマンティエ、
※ペルドローと鹿と猪のパテ、
※山鳩とヴァントレーシュ(熟成ベーコン)とガルグイユ、
※熊の腕のコンソメ・ア・ラ・ロワイヤル(ほのかな栗の蜂蜜の香り)、
※鹿児島産天然の頬肉のコンフィ(黒大根のキャラメリゼを合わせ、グリーンペッパーソースで)と鞍下肉ポワレ(カラフルなビーツとカシス、山葡萄、胡桃を使ったフルーティーなソースで)、4週間寝かせた雷鳥の丸ごとロティサルミソース、
※3週間寝かせた山鳩の丸ごとロティサルミソース、
※山形県の真鴨のロティ、
※3週間寝かせたのロティ、
※鹿児島産ヒドリのロティ。

山ウズラに鹿、猪に熊、ほとんど野生の王国状態。というか、猪鹿鳥。字が違うか?なんか、凄いラインナップです。これをここ一年、お一人でクルティーヌに特注して、黙々と食べてこられたらしい。

もちろん他にも「互閃」などにも出入りしておられ、ともかく美食食いまくりの方なのだ。それにしても、その胃袋に応えるだけの店が阿佐谷にあったとは。

しかしそこはガラス張りでオレンジ色と黄土色のメッシュのような内装になっていて、外からも覗けるし、やたらに明るい。モンドリアンの絵をファンシー系にした外観というか。まあ、暗闇をもっぱら徘徊する私なんぞは入りにくい店である。しかしここに「フレンチ地獄変」みたいなジビエ料理が夜な夜な展開されているとKさんは言うではないか。

凄いミスマッチではある。是非、足を踏み入れねばならぬ。というわけで今回はKさんを案内人として、「クルティーヌ」へゴー。

店内、本日は4人席が3つに2人席が2つというレイアウト。我々を含めて3グループが占めている。接客は男女、厨房にはシェフの善塔氏とサブの方、計4人。Kさんの注文に応えようと、力が入っているのが分かる。

コンソメは、実に濃い。私なんぞつい「何でできていますか?」と尋ねてしまった。「コンソメですが?」との当たり前の答え。タマネギのみということだが、それでこれだけ温かくかつ濃く液体を濾せるものか?ずいぶん手間のかかる仕事だ。

それに「活けサバのタンバル」が続く。日本人には発想できないというか、刺身を骨に並行にではなく垂直に切った、つまり樹木の「輪切り」みたいな形状なのだ。しかし骨は小骨まで繊細に抜いてあり、これにドライトマトが夾んである。黒い皿に紅いペッパーが振りまかれ、なんとも絵心があるシェフだ。感心しつつ白ワインをいただく。

次のサクラ鱒のポワレは、皮がパリパリサクサクと、実にクリスピー。喉を潤しながら軽快に皿が進む。付け合わせのホワイトアスパラも、野菜感がたっぷりある。

ここまで、まったくフレンチから連想される重さがない。野生のシギ以前にパターでどろどろだったらどうしようと少々心配したが、まったくの杞憂だった。

男2人、ほぼ初対面みたいなのにバレンタインの前日をオレンジ色の店内でワインを傾け過ごすのは奇妙といえば奇妙なひとときだが、いよいよ舌に感覚が集中してきた。

さてメインのベキャス。Kさんはすでに熟成前のを食されたという。今回のは2週間熟成させた、つまり肉がアミノ酸化しかかっているしろものだ。食べ比べという凄い「ツウ」ぶりである。

いやこれが、なんとも赤ワインに合う一品。サラミのようなというか、濃いチーズのようなというか、肉といえ繊維が溶けかかった状態である。

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さらに頭部が垂直に断ってあり、左右に泣き別れ状態。剥き出しになった脳髄をすする。白子のような濃厚さだ。手づかみで骨にへばりついた皮を歯でこそげ落とす。赤でグイっと流し込む。

どうやらKさん、一人だとワインが一種しか飲めないのが寂しかったようだ。人恋しいというよりワイン恋しさから私と親父デートと相成ったというわけ。恐ろしい食への探求心である。

食後は3種のお菓子にカワイイ甘い物の付いたカフェ。

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なんとも食を堪能した一夜だった。

それにしても、西麻布と見まがう本格ジビエに驚嘆した。御代は2人でワイン2本空けて1人1万9千円ほどだった。阿佐谷、ビンボー話ばかりの街じゃないぜ。

そして我々は、ほろ酔い加減でガールズバーへと店を替えたのであった。

(センセイ)

※ちなみにクルティーヌはパリで星を獲得したレストラン。そこで修行した善塔シェフが名前を継いで日本上陸と相成ったという。お店の熱いwebもご覧あれ。

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阿佐ヶ谷で飲んでいるときに、店の主人やたまたま同席した人に他の店で食べた料理や飲んだ酒について語ってしまうことがよくある。今回センセイとクルティーヌに行くことになったのも、ある日の深夜、一番街のコットンワゴンでジビエの話をしていて、そこで飲んでいたセンセイと連絡先を交換したのが、そもそもの始まりだった。

その後、クルティーヌでジビエのベキャス(山鴫)を発注することになり、告知のブログもホームページにアップされたので、教えてもらったセンセイの連絡先にメールを送ってみた。数日後センセイからの返信は翌週空いていれば一緒に行かないかというものだったが、こちらは2週間熟成させたものを食べるつもりだったのでその旨書いて返信した。

そのあと連絡はなかったが、コットンワゴンにふらりと立ち寄るとちょうどセンセイが帰ったところで今までジビエの話をしてたということだったので、センセイに電話をしてみた。そして、一緒にベキャスを食べに行くことになった。

予約をした際、シェフとワインも相談。予算を伝え、ベキャスにはカミュ ジュヴレ・シャンベルタン 2001に決定。前菜二皿の内容は未定だったのだが、ワインは白を予算内で選んでもらうことにする。
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それから2週間、ベキャスを食べる当日にクルティーヌのホームページを覗いてみると、ぷりぷりの鯖の入荷とサクラ鱒の入荷を伝えるブログがアップされていた。こちらの勝手な想像でこのブログは本日の前菜二皿の食材を予告するシェフからの挨拶だと受け取る。午後7時クルティーヌに着き、いつものテーブルに案内される。

テーブルに置いてある本日のメニューで予想通りの食材を使った前菜二皿を確認。2週間熟成させたベキャスと共に料理への期待が膨らむが、同時に未知の相手と3時間過ごすことに対する不安で緊張感も高まって来る。

センセイの到着。挨拶を交わして席につく。

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シェフが選んだ白ワインが出てくる。ヴァンサントリコ オーベルニュ デジレ 2011。以前は白が苦手で積極的に飲むことはなかったが、ある時この店で勧められた白ワインを飲んでそれまでの認識がまったく変わった。それだけでも美味しいが、料理と合わせると何倍にも旨味が増して感じられる。この体験がクルティーヌに通い続ける大きな理由だと思う。

さて、未知の相手との3時間、緊張を和らげ会話を弾ませてくれたのは、やはりワインと料理だった。アミューズは定番のコンソメスープ。少量で提供されるので分かりにくいかも知れないが口に含み舌の上でじっくり味わうと深い味わいが口の中に広がってくる。

前菜一皿目の三重産活け鯖のタンバルとピサンリ(西洋タンポポ)胡桃の香りはマリネした鯖をごろりと輪切りにした姿と〆鯖のようでありながらまったく違う味に驚き。

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二皿目の青森産サクラ鱒のポワレ その肝とバジルのソース サルピコンレギュームとホワイトアスパラ添えはぱりぱりっとした皮と肉の柔らかな焼き加減と鱒の味を引き立たせる塩加減、次のベキャスにも繋がる肝とバジルのソースの絶妙な苦味。これらの料理とみごとに調和するヴァンサントリコ。

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そして、いよいよ2週間熟成させたベキャスのロティ サルミソース。一人で食べている時も店のスタッフが側を通る度にその旨さを口にせずにはいられなかったので、今回は当然目の前のセンセイとその姿、香り、肉の色、焼き具合、ソースについて、また、脳味噌の上品な酸味と甘さについて語りつつ、最後は指でつまんで骨までしゃぶり尽くす。

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料理を食べることが五感を全て使った芸術体験であることを実感する瞬間。この楽しみを経験するとやはりまた来たくなる。ある店の常連になるのはそこでしか味わえない楽しさがあるからなのでしょうか。

ところで、今回あらためて感じたのは、美味しい酒と美味しい料理はその美味しさを語り合える相手と味わうと、飲んで食べる時間がより一層楽しいものになるということでした。そのことを知っている料理人はその時間を楽しいものにするためにも決して手を抜くということをしないのでしょうね。

(Kさん/40代 会社員・美食家)

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Shop Information


店名:

電話: 03-6276-9938

住所: 杉並区阿佐谷南3-37-10-1F

月曜、第1火曜休
11:30~13:30(L.O.)
18:00~21:00(L.O.)

Web: http://www.courtine.jp


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