阿佐谷の不思議な飲食店、40軒目。
「Caffeine trick」。
ここが入りにくい理由は2つある。
ひとつめはずばり、美容院だから。美容院はそりゃ、入りにくいでしょ?
中杉通りを駅からしばらく早稲田通りに向け北上すると、ひだりにInSenceというしゃれた美容院がある。そこが21:30頃(日により違うらしい)から、なんとBarに変身するのだ。名前も変わる。それが「Caffeine trick」。
最近では「二毛作」とかで、同じ店舗のラーメン屋が昼と夜と別の名前でやっていることがある。昼間は喜多方ラーメンなのに、夜は味噌ラーメン屋みたいな。
しかしそれは、ラーメン屋はなぜか昼間は人気店なのに夜は空いていたりするからで、阿佐谷の「C」なんかも昼間は行列なのに夜はふつうに入れたりする。
でもここの二毛作は、まったく業態すら別。美容院→Barだから、かなりの変身ぶりだ。だから美容院には関心を持たない人は、見つけることすら難しいだろう。
ワタシはたまたま中杉通りを夜にチャリで走っていて、看板を見つけて興味をもったのだった。
ふたつめは、何しろ21:30頃からしかBarにはならないこと。だから夜にこの辺りをうろうろしない人は、ここがBarになることも知らないだろう。
今回のドータとの阿佐谷巡礼、最後は遅くなっても大丈夫なここにしました。
ドータは経営する『青二才』が近いせいか、来たことがあるらしい。ワタシも、一回覗いてみた。下見である。そのときはバーテンさんと30分ほど話をし、2杯ほど飲んだ。途中、奥から出てきた2人の女性がカウンター前を通過し、「お疲れ様~」と出て行った。美容師さんらしい。業態変身の時刻だった。
今回は、12時も回り、Mさんが抜けたので4人でドヤドヤと入っていく。
「僕って覚えてます~」とカウンターにいる男が聞いてきた。前回のバーテンさんは後ろで笑っている。よくノリが分からないので、「覚えてるよ!」と言ってみた。「僕は初めてです!」みたいな返事。
からかってるのか?ウェルカムなのか?なんかよくわからないが、まぁ、歓迎しているみたい。
バーテンさんの方は前と同じく、「美容師の経験はなし、バーテンは5年」なんて挨拶をしている。ジンフィズを注文。
しかし、ここはシュールな雰囲気ではあるな。カウンターは4席。広いスペースには美容院の椅子が3つ出ている。ライティングも怪しく、『時計仕掛けのオレンジ』の冒頭のシュールなバー「ミルクホール」を連想した。
奥は美容院スペースのままらしく、カーテンで仕切りがしてある。
そのうちに、「ワードバスケット」というカードゲームをバーテン氏がジュンちゃんらと始めた。ワタシも入れてもらう。
ひらがなが1字書いてあるカードが均等の枚数配られ、机におかれたカードの山の文字を頭にした3文字の言葉を思いついたらそれを宣言し、呼び上げた3文字目と同じ字のカードを捨てることができる、という遊びだ。
机に「う」とあり、手元に「き」とあったら「うなぎ」と宣言して「き」のカードを捨てる、みたいな。「うさぎ」でもいい。
あれ?カードが「き」で、「ぎ」じゃダメなのかな?なら、「うわき」でいいか。
ところがこの言葉を、なかなか思いつかないもんである。一同、うーん、うーんと唸っていたら、バーテン氏が「僕、ぜったいに強いです」といいながら加わってきた。
全員が7枚ほどカードをもったところでスタート。「あ」か。
バーテン氏、「あかり」「りんご」「ごりら」「ラジオ」「おんち」「ちんみ」「みどり」みたいな感じで、あっという間に連呼して、すべてのカードを捨ててしまった。僕ら、何の字が題かも分からずぽかーんとしているうちにバーテン君は上がってしまったのだ。
しかし、これでうんうん唸っている間、ワタシらは何も注文しなかった。酒が回るとこのゲームはできないしな。しかし、時間つぶしにはなる。
というわけで、お客と遊んでくれる店であるらしい。さっきワタシをからかった(?)男も、立ったまま冗談を言っている。
でも注文したら、水割りをすぐにもってきてくれた。あ、バーテン君は自分も参加してゲームを進めるが、飲み物がつくれるようにさっさと上がったのかな?そのためにはこのゲームで最強であれはいい。そう考えれば納得がいく。
そうこうするうちに、次に男性客が入ってきた。「あれれ?こないだ見かけたような・・」と男性。あ、いまはなきワインバー「Igrek」でよく会ったFちゃんだ。あそこは妙に学者の多い店だったが、なくなって、こちらを回遊しているらしい。
いま、ワインバーの跡地には、「これが正統派バーだ!!」みたいな店がはいってるが、店主の気位がワタシには合わないので、リピートしていない。こちらのバーテン氏は、まだ不定形の店をなんとか形あるものにしようと努力途上なんだろうな。
お開きにして、帰宅。PCを見ていたら、ここが出ていた。
「◆上下、前後、回転自由な椅子の質感
◆店内完全禁煙の為、美味しい空気の室内
◆店先に設置した喫煙ブースの“体育館の裏側感”
◆半無重力感あふれるBGM
◆美容室ならではの絶妙なパーソナルスペースを確保出来る席の配置
には、自信があります!
“サクッと一杯”
“滞在時間10分”
からお待ちしております☆」
とのこと。とにかく歓迎して欲しい人、シュールな空間に浸ってみたい人にはいいですよ。
お値段は、「◆豆から挽いたコーヒー・各種ソフトドリンク・洒落た焼酎ハイ ¥450
◆ノンアルコールカクテル ¥500(一部除く)
◆ビール各種 ¥600
◆美容師歴0秒、バーテンダー歴5年の僕が創るカクテル ¥600~¥700(一部除く)
◆席料(チャージ料金) ¥0」デス。
(センセイ)
若いこと、貧乏であること、無名であることは
創造的な仕事をする三つの条件だ
毛沢東
個人的にすごく応援したくなるお店であります。
今でこそ、なんとかかんとかでお店を二つほど
経営させていただいておりますが
こんな僕もやはり自分のお店を持つ前は
お金も無く、人脈もなく、経験もなく
ただ若いだけと言う人間でした
何も無いけど、何かしたい、何かやらなきゃ!
9行だけ自分の過去を書かせてください。
今から11年ほど前
自分で自分のお店を持ちたかった僕は
それでも送ってしまう日々の怠惰な生活に嫌気が差し
自分の唯一の休日である日曜日に井の頭公園にお酒を持って行き
巨大なブルーシートを広げて
公園をウロウロしている暇そうな人を捕まえては共に飲んだのでした
そこでの人のつながりから、8年前に日曜日定休日のお店を間借りし
日曜日だけ開店するお店(のようなもの)を作り
更に得た人のつながりで晴れて6年前に自分のお店を持つことができたのです。
あれから10数年が経った今
ふと気がつくと、自分の周りには物が増えたな、と思うのです。
いいことでもあるのですが
何も無い状態と言うのはやはり
逆を取れば何でもできる状態なわけで
創造的でさえあれば、こんなに良い条件なんてのはなかなか無いのです。
何も無い状態の潔さ
多くの場合それに気がつかず、何も無い状態への不安から
そこらへんの在り合わせのものを身に纏いがちですが
ここの店長である増谷君はそれに気がついた、と思うのです。
どんなご縁があったのか、詳しくは分かりませんが
通常営業している美容室の営業終了後
『そのスペースでバーをやらせて下さい!』
そんな発想
まっとうでプライドの高い経験者からは絶対に出てきません。
バーは、こうでないと!
と作り込む人も多いでしょうが
このお店、そもそもが普通ではないため
逆にとてもシンプルなのです。
人と、お酒と、場所があればいいのだと。
(まぁ、営業許可などは取っていると思いますが)
デザイナーズチェアも
生ビールのサーバーも
奥行きのあるカウンターも
シャンデリアも必要ないのです
そもそもの美容室がかなりお洒落な内装かつ
普通ではありえないようなカウンターなんかもあったりするので
十分にバーっぽいのですが
何も無い状態からのスタートですもんね
毎日が新しいことの連続だと思います。
自分のことと照らし合わせながらどうしても見てしまうので
人並み以上に勝手に思い入れが強いのですが
僕はこのお店に行くと(まだ3回しか経験していないですが)
メニューを見ずに、
『ビールください』や
カウンターの上に置いてあるボトルを指差して
『これをおねがい』
などと注文します。
楽しみ方は人それぞれだと思うのですが
僕にとっては、メニューの内容よりも
このお店の創造的な空気感を楽しみに行く場所でもあるからです。
髪を切ってもらう回転式のリクライニングチェアに座り
出てきたビールをグビッと飲み干すのが
他のどこでもできないこのお店だけの粋な部分でもあります。
このビールはどこにでも売っているけど
この席でのビールはこのお店しかないですね。
それでも
きっと、この場所でやっていて
もっと先に進む時が必ず来ると思います。
後から見れば
あの時代
である
今
を体感できるであろう
このお店の成長が楽しみでなりません。
次は何をやらかしてくれるんだろう??
そんな期待を周りに持たせてくれるお店なのだろうな、と思います。
若くて、とにかく何かやってやろうと言う
今でも、この時代の原動力が失われないように
思い起こしてくれるとてもとても貴重なお店です。
まぁ、僕は自分と重ねすぎていますが
それでなくても、
創造的な仕事をする
と言う観点では阿佐ヶ谷でも最前線を行っているのではないでしょうか。
などと偉そうに書いている僕もまだまだ若い!と思っております。
創造的な仕事をするためにも、この阿佐ヶ谷どうでしょうの刺激的なインプット
毎回楽しませていただいております。
しかし阿佐ヶ谷は素晴らしく奥が深いですね。
(ドータ 30代飲食店経営)
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