2021年、阿佐ヶ谷飲食店話題の一軒といえば、ズバリここ「ちゃんこ料理 たなか」。河豚とちゃんこの店です。
年末には連日、朝から深夜までマスコミがカメラを抱えて川端通りに詰めかけています。主人夫妻がそれぞれご不在で、帰りを激写しようという魂胆のようです。
入りにくい店に入ってみる当サイトとしましては、このチャンスを逃すわけにはいきません。そこでわざわざクリスマス・イブにお訪ねしてみました。第65軒目。
相方はモンゴル力士にも知り合いが多い、モンゴル・ジャーナリストのカナコ嬢。「たいへんです、『たなか』開店してますよ」と知らせてくれ、健気にも「偵察してきます」という。「そんなら入店できそうか覗いてみて」とワタシ。
しばらくして「お客さんは誰もいないんで従業員さんたちが鍋をつついてるみたいです」と返ってきたので、早速かけつけてみました。
ここ、2021年夏にビルの1階をいったん壊し、再建しています。それ以前は河豚を食べに2度行ったことがありますが、もう10年にもなるかな。新店舗は初めて。
「あらあら、お食事ですか?」と週刊誌の写真で見かけた女将に似た女性が卓から慌てて立ち上がり、大声で迎えて下さる。チーママか?
「開店休業状態なの。それでも来て下さって嬉しいわ~」と大歓迎の風。「女将は心痛で入院してます」。
2人席が8つはあるでしょうか?客席にはがらんと誰もいない。
壁の中央には写真を複写してある。アマ相撲界に君臨し、大相撲にも強豪を送り込む日大相撲部、栄光の部員たちです。輪島、荒瀬、魁傑、琴光喜の顔も見える。ご主人は、輪島も含め歴代のアマ横綱たちの中でももっとも強かったといわれています。
カウンターは実に大きい。その向こう側が調理場で男が3人。ひとりは現役部員がアルバイトしているそうです。「130kgぐらい?」と訊ねると、「140kgス。俺、痩せて見えるのかな」だと。
女性は3人がお運びをしている。まずは生ビール。乾杯~。
メニューにはびっちりと品書きが並んでいる。蓴菜の酢の物を頼んだらすぐ出てきた。葉っぱが開いたのじゃない、小さい芽の部分。高級だな。河豚皮は700円。庶民的価格なり。河豚刺しを頼んだら「小さいわよ!」と注意してくれる。なので中止。
部屋中央にガラス棚があり、シャンパンやら日本酒やら珍しい酒がズラリと並んでいる。贈り物を記念に並べるためにしつらえたらしい。「主人が日本酒好きなので、『善知鳥』を買い占めたのよ~。でも値段がわからないから出せないの」とチーママ。
入り口横にもガラスケースが。「表から覗かれるから、そちらは化粧まわしを飾ってあるの」。こちらには『十四代』の焼酎「鬼兜」や『菊理媛』「くくりひめ」。
しばらくカナコと談笑。カナコは面白いヤツだ。「モンゴル人は何かとげんこつで殴りますから。日馬富士の暴力事件なんて、お相撲さんでなくても誰でもやります」。
ちゃんこは各種あるが、気になる味噌ちゃんこに。チーママはずいぶん気さくで説明も親切だ。「うちは日大の味。お相撲さんじゃないから、ちゃんこの具はぶつ切りではなくて団子なの」。どんなに混んでもちゃんこは店の方が作ってくれるそうだ。
日本酒の冷やを頼むと「長野の『喜久水』。ママが飯田の出身なの」。出てきた酒をグラスでいただくと淡い甘さで旨い。
「事件は知ってるでしょ」と鍋をかき混ぜながらチーママ。当店、一時期は『大翔鳳』だった時期がある。日大出身で小結まで行った。急死されたが、店を譲る予定だったらしい。譲ったら事件は起きなかったのかな。
そこに「写真取られちゃった~」とお姐さんがもう一人店に飛び込んできた。ゴミ箱の横に隠れていたカメラマンに撮られたらしい。
「お豆腐は煮えなくても美味しいから食べて、汁は飲んだら足してあげるわよ。出汁はマル秘だけどね」。はふはふして頬張ると、汁が肉団子に浸みて旨い。「こんな時期に来てくれたんで、いつもは下はうどんどけど、今日は大サービスで全部野菜!」
なんだか楽しくなってきた。レモンサワー頼んだら、「だったら麦ね、シークワーサーにしますか」、と最後まで親切だ。
最後にサービスで「千疋屋のメロン」が出てきた。でもこれはラッキーだっただけだと思います。なかったことにして下さいね。
サイレント・ナイト。大満足!!
(センセイ)
阿佐ヶ谷のホットスポット、ちゃんこたなか。
店の存在は以前から知っていたものの、敷居が高くて自分には縁がありませんでした。最近はマスコミが連日押し寄せて、貝になるかのごとく店のシャッターも閉じたまま。もう二度と開かないのでは…とさえ思えました。
ところが、12月24日の夜。
センセイの奥さまSさんから「田中、やっています!」とのメッセージが。ほぼ同時にセンセイからもお電話があり、私は急いで偵察へ。なんとシャッター全開! ガラス越しに覗いたら、店内に3人グループが2組も座っているではないですか。
はやる気持ちをおさえ、自動ドアを開けて「今日は一般客も入れますか?」と尋ねたら、片方のグループにいた女性が入口まで駆け寄ってきて「大丈夫です!」。隣にいた大きな男性3人が即座に厨房へ消えました。全員スタッフの方だったようです。私はいったん外へ出ました。
10分後、ママチャリに乗ってセンセイご登場。1年半ぶりの懐かしい光景です。
あらためて一緒に中へ入り、掘りごたつ式のテーブルに座りました。他にお客さんはいません。
メニューを眺め、「品数が多いねー」とセンセイ。別の小さな正方形の色紙には手書きで「フグコース」とあります。3度目15年ぶりの来店だというセンセイにオーダーをお任せし、私は店内を凝視…。
壁には歴代の日大相撲部の栄光の瞬間を撮ったモノクロ写真がプリントされ、学生時代の琴光喜さんや日大相撲部OBの知人を発見。希少なお酒がおさめられたガラスケースも気になります。
生ビールが来て、乾杯!
お通しは薄切りのレンコンを甘辛く煮て鰹節をかけたもので、シャキシャキ絶妙な歯触り。
続いて運ばれてきたのは、糸のように細長く切りそろえられた長芋と紫蘇の酢の物と、じゅんさいの酢の物。上品な味。紅葉おろしが添えられたフグ皮は歯ごたえがよく、ビールが進みます。
ここでセンセイのご子息I君が合流。I君と私は初対面ですが、そう感じさせないコミュニケーション能力の高さに脱帽。
センセイは次、日本酒へ。小ぶりの水色の瓶に入った喜久水というお酒を、おちょこに注いで3人でいただきました。「これはおいしい」とうなるセンセイ。スッキリした辛口、素直な美味です。
ようやくSさんが到着され、センセイ一家に私が紛れこんでワイワイするという構図に。やっぱり酒場はいいなあ、としみじみ嬉しくなりました。
そうしているうちに、ちゃんこのセッティング開始。
具材は春菊、キャベツ、白菜、長ネギ、人参、えのき、しめじ、お豆腐、葛切、鶏肉団子。驚くべきは野菜の量。3人前とは思えないほど山盛りなのは、相撲界の通常スタイルなのか、他に来客がないからなのか…?
仲居さんが手際よく鍋の準備をしてくださって、私たちは見ているだけ。至れり尽くせりです。
ぐつぐつ煮えたら、いただきます!
濃いめの深い出汁。体が芯から温まり、美味しさがしみました。スープが減ってくると、すかさず「いくらでも足しますよ!」と仲居さんが来てくださいます。
センセイの格闘仲間のTさんも途中で加わり、ますます賑やかに。
〆はコシのあるうどんで、デザートのサービスでメロンまで出てきました。
お会計の瞬間、「ぼったくられる」というネットで見かけた噂が頭をよぎり一瞬緊張しましたが、そんなことありませんでした。店を出る直前に「カレンダーをお持ちになりませんか?」と声をかけられ、山積みの束から1人1部ずつ相撲協会の公式カレンダーもいただきました。
店を出ると、外はつめたい雨。そんな中でもカメラを構えた記者が待ち構え、入口へ駆け寄り取材を試みています。いまや「巨悪の巣くつ」と疎まれている場所ですが、そのイメージと店で働く方々の親切さや丁寧な味とのギャップに驚いた、というのが私の率直な感想です。今後この店がどうなるのかはわかりません。
ただ、厨房とホールであくせく働く皆さんには幸あれと、駅前の巨大クリスマスツリーが強風に煽られるのを見ながらひそかに願ったホーリーナイトでした。
このあとは一同、中杉通りのポポットへ移動!
ごちそうさまでした!
(阿佐谷酒場応援団員、30代女性)
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