29軒目。
ドータ君との巡礼、2軒目は「はる」。
以前、ぱすてる屋に行ったとき、阿佐ヶ谷でどこがいちばん古いかという話になった。
ママによると、「はる」ではないか、とのこと。40年近くやっているのでは、というのだ。
いわゆる「小料理屋」の体裁だし、あまり関心もなかったのだが、俄然興味が湧いてきた。というわけで、ドータ君を連れて行く前に、下見。
駅南口を右折、線路沿いに少し行って「豚八戒」のある角を曲がるといちょう小路。その一番奥、というか川端通りに面しているのが「はる」だ。
正面に立つと、なかなかセンスの良いデザインののれんあり。
ガラガラ、と戸を引く。
くの字のカウンターが8席だ。
女将はワンセグみたいなテレビを客席に出てみていた。大きい方のモニタはカラオケ。
小料理屋が、カラオケの波で導入したというわけですね。
ビールを注文して、さっそく話題を店の古さに振る。
「駅の南側は戦争で焼けて、この辺りで商売を始めた人が焼き鳥で儲けて、店舗を広げたんですよ、五軒。焼き鳥屋は『一番』といい、その屋号でここに飲み屋も始めました」
終戦直後というから、1947年頃のことか。
「それでですね、その大家のおばあちゃんは20年やって、私に継いでくれっていうんだけど都合が悪くてできなくて、5年経ってから屋号を変えてから私で40年やってます。だから、、計65年」
あら、「はる」は40年だけど、大家さん的には継いだことになってるから、そちらの計算では65年。なるほど阿佐ヶ谷最古参はこの店に認定!
次にひとり、次に「ビール一杯」と二人が入ってきて、賑やかになった。隣り合ったので聞くと、この店以外はほとんど行かない、と仰る。本当に常連さんです。「うん、30年来てるから」。常連さんも古い、古い。
で、改めてドータ君と来たわけだ。
ドータ君も飲食店経営だが、まだ五周年を迎えたばかり。ありがたやと同い年だね。
また、昔話を教わる。
一番街の「司」は、「チャイナタウン」か移動して、別のママに変わって30年間以上やってるんじゃないかって話。
ジーパン屋さんが成功して、あちこちに店を出した話。
バブルでもうけた大社長が、来るたびに何万も置いていってくれた話。これは十年前頃らしい。阿佐ヶ谷にも景気のいい時代があったってことか。
ちょっと高いとぼったくり呼ばわりするんじゃなくて、粋な飲み方ではある。でも、何故「はる」で?
「いえ、ワタシにもわかりゃしないんですよ、口説かれた覚えもないし」。それはそれは、粋な社長ではある。
ま、そんなことが起きるような風情ある時代が似合うお店ってことですね、「はる」。
そういえば女将さんは「Oiso」とプリントされた、妙に派手派手のTシャツを着ている。40年といえば、そこそこ御年も分かるが、それにしてもポップだね。
そこに女性が「おばさん、蒸し暑いね」、といいながら入ってきた。
「土曜に任せてる方なの」
「としこ、としまのとしこよ、27年間、この小路で『華屋』やってたの」
あらら、こちらも生き字引だ。口元にえくぼが出来て、なかなかに色っぽい。
それから、戦後のどさくさの阿佐ヶ谷がどうだったか、北口の様子は、なんて「子持ちままかり」を食べつつ伺う。
お姉様方とこうした飲み方も、楽しいもんですよ。
(センセイ)
ps.しかし長く営業するというのは、今日の日本ではほんとうに大変なことです。「はる」さん、今日も、お疲れさまです。
本日二軒目
いちょう小路の入り口のところにひっそりとあるお店
清酒会社の名前とお店の名前の入った看板
最近見ないよなぁなんて思いながら
のれんを上げ引き戸をずらし店内に入る
目よりも先に鼻が反応した。
おばあちゃんの家のにおいがした。
鼻から遅れること0.5秒、僕の目は
小さなL字型のカウンターの向こうに居る
はるさんを捉えた。
黒地に黄色や緑などの英字の入ったTシャツをお召しになられていて
さすがまだ現役でやってらっしゃる方は(オシャレだなぁ)などと思いながら
椅子に腰かける。
表の喧騒が嘘のように静かな店内
L字のカウンターには8つの椅子があり
店内には他に3脚の椅子が置いてあったので
最大で11名までか。
さらにカラオケ機も置いてあり
11名が来て、カラオケするわ飲むわ騒ぐわなどとなったら大変だよな。
瓶ビールを注文、はるさんが注いでくれる。
お通しは小さな帆立の煮たもの
追加で子持ちママカリを頼んだ。
なんでも、ここは阿佐ヶ谷最古のお店らしい。
先代から引き継いだはるさんが働き出して40年
先代も入れると同じ場所で64年もの間お店をやってこられたそうな。
64年なんて言えば、戦後まだ間もないころだ。
阿佐ヶ谷を始め、中央線は北と南で住んでいる人種が違った話や
阿佐ヶ谷の大地主さんの話など、はるさんが歴史の証人ゆえに
真実味のある、でもどこか僕からは遠い話のようなものをたくさん聞いた。
ビールが減ると、はるさんが注いでくださる。
もう一本頼む。
途中で、この店で土曜だけ働いていると言う
としこさんもご来店。
先生、僕、はるさん、としこさんの4人でしばらく話す。
(と言っても僕はほぼ聞いているだけだったが)
はるさん、としこさん、先生と
みなさん僕からしたら生き字引みたいな方々に囲まれ
表世界とは違った時間軸がゆっくり流れる
あ、気が付いたら先ほどの匂いも感じなくなってきている
三名の話はどんどんアンダーグラウンドに潜り込み
やれ、やくざだ、殺人事件の話だ、政治の裏話だ
と戦後日本の裏近代史の授業を受けているかのようでもあった。
ビールの後に頼んだ焼酎の水割りが無くなる頃
お会計をしてもらった。
二人で4000円だった。
最後、挨拶をしている時
もう一度Tシャツをよく見た
黒地に書いてある英字は
OISO
その下に
prince hotel
と
大磯プリンスホテル!
殺人事件の話とのギャップに少しにやけてしまった。
(ドータ 30代飲食店経営)
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はるは、一見客さんは入店可能ですか?それとも常連さん限定?どっち?
常連さんが多いですが、一見さんにも優しいですよ?。女将だけじゃなく、常連さんも。