阿佐ヶ谷巡礼、33軒目。
飲んでいたら、隣り合った妙齢の女性が「阿佐ヶ谷って、居酒屋ありますか?ザ・居酒屋みたいなのは」と聞くので、はた、と考えた。
そういえば、和民みたいなチェーンを除く居酒屋の個人店は駅前コミュニティの顔。高円寺なら大将(数軒あるが、独立経営だからメニューがそれぞれで異なる)があり、荻窪なら名店「かっぱ」「やきや」、それに鳥もとも。吉祥寺は言わずと知れたいせや。
しかし阿佐ヶ谷となると・・・
丸山は個人店だが駅前じゃないし。たつやはそもそもどこにあるんだかも知られてないし。一二三はお安いが皿にしても味付けにしても高級店風だし、少なくとも「ザ・居酒屋」じゃない。
ワタシの好きだった高円寺の創業昭和14年「かみや」は残念ながら今年閉店、店頭には「ご時世には勝てずうんぬん」みたいに書いてあったから、居酒屋個人店は難しい時代なのかも。
しか~し。「和田屋」があるじゃないか。駅北口ロータリーを西来たに出て、ビレッジバンガードのある角を入り、焼き肉屋(ぶち、双竜)二軒が競い合う四つ角、つまりスターロードの入り口を右折。鳥久の隣だ。
ここ、不思議なことに何故か縁がなく、気になるのに入ったことがない。ならばということで、妙齢・Yちゃん、その隣にいた「阿佐ヶ谷で一番怖い顔」のS君を誘っていってみた。途上でFちゃんがふらふらしているのに遭遇したから捕獲。4人で入店してみた。これならいろいろ食べられるぞ。
戸を引くと、「く」の字のカウンターが9席ある。右手には4人席が4つ並ぶ。木製で茶色が時代を感じさせるな。壁は畳張りみたいになっていて、日本酒「仁勇」の文字。風格があるぞ。
まずは、ビールやレモンハイで乾杯。ご夫婦でやっているようだ。おやじさんは、はっぴ姿。女将さんに勧められて、客が釣ってきた、釣りたてかつお刺し(600円)。ピンクの身が並んだのが出てきた。淡い脂の乗りがいいな。
ここでドータ登場。店のシフトが終わって来てくれた。
煮込み(500円)は、絶品。、煮込まれている。腸だけでなく新鮮な脂肪(牛モツの「極みホルモン」(@新宿・幸永)にあたるもの)も煮込んであり、とろりとしている。
くさや(500円)があるので、これも頼んだみた。S,Y,Fそれぞれ「ひゃー」とか言いながら頬張ってる。身は半生に近く、それにしっかりトイレ臭(笑)。かなりの本格派だ。噛みしめると味わい深い。これを楽しめるかは人によるかな。
「あれ、なんすか」とS君が言うので振り返ると、黒板に「氷頭」とある。あら、珍しや。
ヒズではないか。鮭の頭部をナマスにして薄くスライスしたものだ。頼むと、コリコリして酸っぱく、うまい。お新香(300円)もしっかり漬けてある。どれも手のかかる本格派の品ばかり。
酒も、サワー各種は380円だが、自家製のかりん酒、梅酒、あんず酒なんかも400円で置いてある。とにかく手をかけるところが素晴らしい。個人店の本領発揮だ。
その他、馬刺し、マグロ刺、とろろ納豆焼、 ネギソーセージ、イカ一夜干し、自家製塩辛なんてオレンジやピンク、黄色の短冊に書いてあって目移りするが、今回我々は焼トンをいただく。
「ウチは34年になるのよ~」と女将さん。かわ清とほぼ同じ頃に始めたという。「はる」のママも常連らしい。阿佐ヶ谷30年選手の横のつながりだ。古き良き阿佐ヶ谷の匂いが、ここにある。
カウンターには背広の紳士。その隣は、帽子をかぶり、フード付きのオレンジ色のジャンパー、せったにサングラスという出で立ちの白髪白髭の親父さん。 「スーパーの西友にきたはずなのになぁ、俺は」とつぶやく。絵になること。
「え、西友は行ったんですか?」た尋ねると、「いや、いってない」。当店五時始まりなのに、三時半から常連特権で無理矢理上がり込んで、九時間飲んでるという。
なんともオヤジ天国ではある。
帰りしなに壁を見たら、色紙が飾ってある。なんだ、よくある売れない芸能人のか、と一瞬思ったが、よく見ると「田中真紀子」と書いてあるじゃないか(驚)!!
「和田屋さんの開業20周年に際し、若い高橋ご夫妻の永遠のご努力に敬意を表し、ご繁昌をお祈り致します」とある。ああ、色紙の中には小さく「田中直紀」のサインもあった。
すげえなぁ、と隣の色紙を見ると、達筆で「祝結婚」とある。なになに、田中角栄?!
なんだか、凄すぎる歴史を誇る大衆割烹「和田屋」なのであった。
ドータがたくさん書いてくれたんで、サービス・ショット。SFのお二人です。
(センセイ)
我らが中央線にはその街の顔!みたいな居酒屋が各駅にある。
吉祥寺で言えばいせや
西荻では戎
荻窪ではとりもと
高円寺では大将
先生と話していて、ふいに居酒屋に行こう!と、なり
ふと、考えてみた、が
阿佐ヶ谷にはそう言った類のお店がパッと出てこない
そもそも、居酒屋の定義って何だ???
ま、そんなときはあんまり深く考えずに
google先生に頼って随分下の方の検索結果で
出てきたお店が和田屋だ
こんなことを言っては申し訳ないが
正直、あまり期待なんてせずにお店に向かった
先にお店に入っていた先生たちを入り口のガラス越しに見つけ
ガラガラと扉を開ける
店内の壁にはところ狭しと貼られたメニューの数々
んん〜〜!!
居酒屋っぽい!!!!
そして、この木の壁ね!
昔流行ったのだろうか
僕の浅い知識の中で
現存している居酒屋って呼ばれる由緒あるお店の壁は
いつもこの木が壁材として使われている気がする
いせやや、大将とか
この階段が見えてしまう斜めな部分も必須だよね
居酒屋には!
自然とテンションが上がる
居酒屋は居心地の良すぎる椅子を置かない
見事なまでの直角背もたれな椅子がいい
90度の美学
背筋伸ばせよお前
って言われているがごとき椅子に座り
結果、実際に座ってお酒も入るし少しすれば
椅子を45度の斜に座る
するとその瞬間から背もたれは肘掛けに変わる
もしかしたら完成された機能美あふれるデザインなのかもしれない
狭い席に、90度椅子
んん〜居酒屋っぽい!!
この壁と
この椅子を置けば
どこだって居酒屋風にはなるのだろう
さて、料理を頼む
先に入っていた幾人がすでに頼んでいた物をつまみながら
居酒屋には椅子や壁以上に必須な
煮込み
を頼む
何の煮込みかって!?
そんなの聞いては無粋だ
何かの煮込みだ
運ばれてきた煮込みをつまむ
口の中で何かがとろけた
得体は分からないがとにかくうまい
臭みが全くない何かのホルモン的な部位と
うまみを存分に吸い込んだ大根などの野菜
昨今の流行であるトロトロ系ではないしっかりした豆腐
そして、これだけでご飯が食べること出来てしまうような汁
この、何かの煮込み
旨い!
いい、居酒屋だよね◎
他にも、鮭の頭のつまみである氷頭(ひず)や
釣り鰹などなど、驚くほどにちゃんとしている
壁一面に貼られたメニュー全てをこのクオリティでこなすのは
同じ飲食目線からして並大抵の努力ではないのに
そこを主張するでも無く
さらりとやってのける
良い居酒屋は一朝一夕にしてならず
グラスに瓶ビールをお酌してもらいながら
話題は、くさや
になった
そう言えば、臭い臭いとは知っていたけれども
食べたこと無いんだよな
先生がくさやをオーダーした
程なくして、店内に異臭が立ちこめた
店内は僕ら以外のお客さんも数人居たが
皆、この異臭にはピクリとも動じず酒を傾けている
牛舎のような臭いに包まれた店内
その臭いのもとがテーブルに運ばれてきてなお
テンションが上がる自分に気がつく
オシャレ感無し
椅子は直角
席は狭い
そして臭い
なんだろう、いい居酒屋に来ると
自分の知らないM部分をいい具合につつかれているのか
普段だったらもっと我がまま言いたくなるのに
この店では、このルール、この不自由さのような、少しの苦痛が気持ち良くなってくる
カウンターの中では
半纏を羽織った大将が仕事をしながら
カウンター越しに、年端の行った常連の方と話していた
常連の方は3時半に来たそう
もう、12時半ですが。。。
9時間も呑んでいれば、泥のように酔っぱらっていてもおかしくないだろうに
この方はサラリと空気のように、お店のインテリアのように全てこなす
いい居酒屋には、その歴史の中で自然に生まれたルールのような物があり
そこに沿った粋なお客さんが居てこそ
完成する物なんだろう
いい居酒屋に出会えると幸せになる
帰る時、暖簾をくぐりながら少し誇らしげになったのだ
きっと
吉祥寺にも高円寺にも負けない
素敵な居酒屋がある阿佐ヶ谷をまた少し好きになったからだ
(ドータ 30代飲食店経営)
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