もっぱら妖しい光と影を求めて阿佐谷の夜をさまよう我々。
しかしもちろん、昼間も歩いています。そして「ビビーン」とくると、つい立ち止まるのを忘れていません。というわけで、番外編の1。ハヤトとは一緒に行けないので、一人でレポートします。
青梅街道を荻窪に向けて歩くと、お仏壇の「はせがわ」が右に見えます。もう少し行くと、最近は阿佐谷を代表するラーメンの名店、カフェみたいな「Ciqueチキュウ」があります。その向かい、ちょい荻窪寄りに、青いペンキを塗った扉があります。「Cique」に似た、さっぱり系のテイストと言えるでしょう。
路上には、真っ赤な立て看板にチョークで店名が書いてあります。
「ひなた珈琲」。そして「喫煙席のみ」。
いまどき、毅然としているというか、なんというか。ソソるものがあります。チョークの暖かみもいい。
入ってみると、細長い店内。ぷーんと、コーヒー豆の良い匂いがします。かかっているのは、もちカフェ音楽。
奥に5席ほどのカウンターがあり、アラサーな感じの女性がコーヒー豆を挽きながら、器具に棒を突っ込んでかき混ぜています。手前には3席の小さなカウンターがあり、カバーをはいだ文庫本がズラッと並んでいます。背表紙を見ると、星新一だけで30冊以上。三島も「切腹」なんかがおいてある。短編がお好きなのか。ちょうど珈琲一杯で読めます。客のココロが読めてるというか、センスいいな。
その横に白い安楽椅子が向かって2脚。ワタシは青梅街道に向かって座る。リラックスできます。しすぎて寝そう。
メニューをもらうと、こうあります。
ペーパー、ネル、水だし、ベトナム各コーヒー400~550円
アイリッシュコーヒー、グランマルニエコーヒー、各600円
リンゴのケーキ380
お酒もあります。
ハートランドビール700円
ベルギービール800円
ま、良心的ですね。
外に向かって座っているので、店内には背を向けています。ぼーっと背中の方から聞こえている会話に耳を傾けると、先客はカップルと男一人らしい。男がいろいろ店の女性に話かけています。
「好きなタイプは?」
「私?うーん、変わってる人。いや、私より酒が強い人かな。先につぶれない人」
「エー、酒豪なの?俺は亭主関白に見えないしょ?」
なにやら強引に口説くのを適当にさばいているみたい。後の二人の男女は苦笑いしている様子。そこに店の女性から謎な発言が。
「でも今の奥様以上の人はいないですよ」
あれ、口説き男は所帯持ちか?
「幸せそうに見えますよぉ」
「いや~『不』がつくねっ」
攻防は続いていきます。
女性が私の水出しコーヒーとリンゴのケーキを持ってきてくれました。ケーキは相当に大きい。生クリーム添えです。いずれもなかなかうまい。
聞くと、12時から9時までの営業。木曜定休です。
白い壁に黒い椅子、白い安楽椅子、至ってシンプル。青梅街道を走る車を見ながら、ほっとする時間を過ごしました。
帰り際に、奥を覗いてみました。あれ?口説き男は若い女性を連れている。声だけを聞いていたら、その女性はもうひとりの男とカップルかと思ったのだが。とすると、口説き男は所帯持ちで、さらに若いねーチャンを連れていたってか?
不思議さもテイストであります。(センセイ)
所在地:東京都杉並区成田東5-15-22
営業時間:12:00~21:00
定休日:木
電話番号:080-6594-8269
番外編、喫茶店その2。旧中杉通り、なか卯からまっすぐ行き、坂を下る前、酒屋の柳瀬屋の筋向かい、床屋理容フジワラ、クリーニングの向かい。古本のコンコ堂の並びにもずっと閉まっていて気になって仕方ない喫茶店がある。その名も「パンドラ」。
喫茶店であるのはショーウィンドウの見本で分かる。レースのカーテンが降りていて、店中は見えない。いつも「営業中」の札が出ている。
ある日、ついに開店してるのに遭遇した!用があったが、投げ打って入店してみる。
おお。店内は予想とかなり違う。山小屋風というか、ウッディー。天井は茶色の材木で組んであり、半ばで切れていて凹凸になっている。それも段差は一メートルはある。
白い壁に鉄の抽象のレリーフで「pandora」と描いてある。かっこいい!阿佐ヶ谷でも、もっともカネのかかった内装ではないか。豪華というのではないが、綺麗だ。暖炉まであるし。
カウンターに煉瓦製の椅子、皮のクッションが四席分置いてある。サイフォンが4つ。ママさんが珈琲を入れてくれる。
「病院に通っていて、なかなか開けられませんでねえ・・」。
「運が良かったんですね」
「次はいつか分からないですね」
いや、もったいない。開いていたら毎日通っちゃうがなあ。
大きめの二人席の机と一人掛の席が2つあり、計10人は入れるか。
モダンジャズ、バリバリ弾くピアノトリオがかかっている。ケニー・ドリューか?いや、アンドリュー・ヒルあたりかも。かけ離れすぎてるか。まあ、聞き込んだ選曲ではある。
70年代風とはいえるんだろうが、あの頃のジャズ喫茶はどこも暗かった。暗けりゃ知的みたいにでも思ってたんだろうか。でも明るい空間で稲妻みたいなピアノもまたよし。
その後、またずっと閉まっている。隣の花屋さんで水をやっているおばさんに伺うと、「連絡先も分からないわねえ」。この店舗は阿佐ヶ谷の文化財じゃないか。このままなくなってしまうのはもったいない。この素敵な空間を、そのまま借りて営業してくれる人はいないもんだろうか?ワタシは通いますよ。
(センセイ)
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