番外編、珈琲屋2題。
小生、夜型のせいか日中はあたまがぼ~っとしている。そこで珈琲、それもとびきり濃い奴が必需品。
自分でも淹れてはみるし、そもそも豆は深煎りの真っ黒なのを買ってくるんだが、それでもあたまの真まで「がつーん」と来ることはなかなかない。
そこであたまのリフレッシュに、いつもここを訪ねる。といっても他の店のようにお店そのものを紹介しようってのじゃない。今回は、「あたまにがつーんと来る珈琲、阿佐ヶ谷番外編」なのだ。
中杉通りを駅から北上、左側にここはひっそりとある。といってもガラス張りで、ご店主が身じろぎもせずカウンターに立っておられる姿を外から見ることができる。
しかし「アド街ック天国」でも店名は伏せておられたので、敢えて匿名でいきます。っても珈琲好きなら誰もが知ってる店だけどね。
お店はカウンターが上品なおじさま、おばさまで賑わってます。その中で、珈琲に職人気質といえばあればかくやと思わせるご主人が一点を見つめて立っておられる。口が細く長く伸びたコーヒーポットの先から湯が滴り、ネルを塗らす塩梅を凝視しているのだ。
「『ブラン・エ・ノワール』をお願いします」。ワタシはいつもこれ。
おばさまから「今回のオリンピックはねぇ~」という呼びかけがあって、「そうですね・・」
と応えてはみるものの、心は焦点が滴りにオン。常にポットの口に視線が集中しているのだ。
四人席が奥に二つあり、ワタシはそこで置いてある趣味雑誌、本日はブルータスなど読む。
目の前に焙煎室、深夜に前を通るとザーっという音がして焙煎しておられるが、日中は三方ガラス張りで閉じてある。その日の珈琲か、簀に2種類乗っている。
待つこと20分。
なにしろ、フレンチローストの深煎りのエッセンスをつつーっと淹れて、それを銅の筒みたいなのに入れ、冷凍庫に。凍る直前の適時に引き出し、三角の薄いカクテルグラスに注ぐ。さらに生クリームを表面に浮かべるのだ。息の詰まる作業である。
やってきた。
はー。美しい。
表面には生クリームが五ミリ。グラスの細い首持ち、傾ける。つつー、っと唇をクリームが包む。その間からエッセンスが突き抜けて口内に。そこにクリームが割り込む。
飲み込むのがもったいない。これは珈琲の宝石だ。口内で、歯の内外に染み渡らせてから飲み込む。
つつーん、と脳に響く。
おお、来たぜ。脳幹が(ってホントか?)痺れ、考えが透明になる。
10分かけていただき、席を立つ。650円の贅沢だ。
「すみません、遅くなりましてぇ」と明るい奥さん。
この店は豆の外売りもしているし、もちろんブレンドも美味しい。しかしワタシはこれが飲みたくてここに来る。
ここで豆を買えば、自分で出来ないこともない。大量に豆を挽き、冷凍庫に入れればよし。生クリームも入れて。しかし、何かが違う。それは一点を凝視する心の集中だろう。ワタシでは、気持ちが続かないのだ。
職人って、凄いな。
(センセイ)
濃い珈琲をもう一杯。
プチと珈琲茶館がなくなった今、漆黒の木造で珈琲も正統派で健在なのが珈司です。ワタシはここで一番濃い「デミタス」をいつも頂戴しております。
中杉通りを南阿佐谷に向かって中間あたり、左側。いささか外観は時を経ております。屋根には「珈琲を楽しむ店、珈司、CAFE COCI、かふぇこおし」などと書かれた文字が見えます。
きぎーっと木の扉を開けると、酒店のように薄暗く涼しい。昼間から灯りがついています。四人席が三つあり、カウンターの背中には三段の棚。そこにカップが並んでいます。
煮しめたような焦げ茶色のテーブル、黒ずんだ白壁、茶かかったカーテン。山小屋みたいな作りですね。時が止まったかのよう。風景画、棟方志向の女性像が架かっています。
ストーブは出し放し、キャッシャーに設置電話があり、横に本は平積み。「とらや」がきっちり再構成された完璧な「昭和」を模しているのに比べると、くすみ方に時間の経ち方の違いが見えます。
「デミタスを」とお願いすると、中年の旦那が「はいっ」と丁寧に淹れ始めます。こういう店にしては若め、テキパキと作業が進みます。やはり丁寧にいとおしむように淹れています。
ここでいただくのはホットのデミタス。いつも「がつーん」と来る深い味わいが楽しめます。それでいて、なんといっても安い。豆をかなり使って、350円也。
本日も小ぶりのカップが出てきました。まったく透明度がなく、漆黒に光っています。ぷーんと匂いを放ち、珈琲が生命力を吹き返した感じ。
唇をつけると、熱い液体が喉の上部に当ってなでるように嚥下します。ずーん、とくる。バスドラのような効き方です。これこれ。
神明宮脇の道を北上すれば「コーノ式」の綺麗な新店があり、近頃はチェーンの著名カフェも阿佐ヶ谷を席巻している。でもワタシは、こういった時間の経かたや、なんといっても深い味わいが愛おしいんだな。
柱にかかっているメニューを見ても、きっぱりしています。なにしろブルーマウンテン、マンデリンとか、珈琲の銘柄しか書かれていません。モーニングもランチもケーキもなし。わずかに「紅茶」とか三種ほどのドリンクが見えるのみ。「ザ珈琲屋」ですね。矜持あるメニューだ。
内装にもう一工夫あれば、若者も入りやすくなるかも。「パンドラ」の店舗でこの珈琲なら流行る気もするが、余計なお世話か。
肘をついて窓の外をぼーっと眺めたら、軽くゴォーッと車両の通過音が聞こえ、中杉通りを映画のように車と歩行者が通り過ぎて行った。
(センセイ)
2020.6.15数年前に中杉通りの店舗が閉店、がっかりしていたら、誰にも分からない場所に移転。ワタシは恐らく阿佐ヶ谷イチ、チャリで走り回っている男だが、それでも気づかなかった。そんな分かるはずない場所は、パール商店街のドトール近くなんだが、文章では説明不能。
まあ、写真の住所からたどりついて下さい。
なんとアパートの一室に移転です。カウンターだけですが、ご主人は元気。
開店のサインは出ていますが、路地が狭すぎて通行中に気づかない。いま、阿佐ヶ谷でもっとも入りにくい店ですな。
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