阿佐ヶ谷の入りにくい店を探して62軒目。
1年半ほどのご無沙汰です。
昨春に職場を変え、私生活を通常運転に戻すだけで時間を取られてきた今日この頃。
皆様、お元気でいらっしゃいましたか。
この間、焼き鳥界のトップスター・バードランド横で渋く焼き鳥屋を営んでこられ気になり続けた「雅」が閉店し、当欄としてはまたとない「入りにくい店」を取り逃したと悔やんでおりました。
また相方のひとり、パンク漫画家・勝見華子がなんと出産。子育てにいそしんでいるという情報も風の噂に伝わって参りました。
さてその勝見とともに本欄でご紹介したギャラリー・バー「ぱすてる屋」が静岡県の清水に移転となり、しかし阿佐ヶ谷広しといえどもあれほど地の利に劣る場所を継承する方はいないかと思いきや・・知らぬ間に新店が店開きしておりました。
しかも、その名もそそる「煮込みBAR」。夕方4時半に通りかかったところ、いまにも開店しそうな雰囲気でした。ちと、早すぎやしないか?
これは取材せねばならん。
ということでこの間にスカウトした大型新人、モンゴル方面に詳しいカナコ嬢をお誘いし、お友達の編集者・Kさんにもご同伴いただいて、3名して行って参りました。
阿佐ヶ谷駅から中杉通りを南下、産業商工会館の通りで右折。
左右に店がずーっと続き、住宅が増えてきて飲食店も途切れるあたり、お寿司が大盛りで人気の「大入鮨」の次の角を右折。夜ともなるととても店があると思えない暗がりが、以前よりも明るくなっておりました。
「煮込みBARゴールデンスランバー」。どっしりした骨董のような引き戸と大正ロマン風の磨り硝子。その前にはメニュー板が陳列されております。、内部の様子が分かるようにでしょう、写真もずらずらと並んでいます。ウェルカム感てんこ盛り、安心して入りましょう。
期待の大型新人・カナコ嬢とは、昨年の梅雨入り前頃、共通の友人が亡くなって、そのお通夜の帰りに出会いました。明日はいよいよ故人とも永遠のお別れ、我々は「ポポット」に場所を移して故人を偲んだのですが、カナコ嬢はなんと二日酔いで本番の葬儀には現れませんでした。しかしモンゴル時間で動いている方なのでさもありなんと、一同納得しておりました。そんなキャラクターであります。
ギギーっと扉を引くと、内部は様変わり。左手にカウンター、洋風の椅子席は5つ。右手には2人がけ席が3つあります。芸術ぽい前の空間からは大改装、飲食店としてのお仕事感があります。
カウンターのご主人は推定50歳くらい。ナイスミドルといった優しい表情。頭上には印象派の名画、ルノアール、モジリアーニ、ドガといったあたり(のもちろん模造品)が掛けられています。
予約してあったのであらかじめお手拭きが置いてあったのですが、「もう冷えちゃったから暖かいのに交換しましょう」(!?)。なんと細やかな気遣いでしょう。入店してワタシの顔を見るやモノを投げつけてきたのが懐かしい山路のヨシコとは対照的です。
3人でまずはカンパーイ。ワタシはグレープフルーツサワーから。「自家製ごどうふ」という耳慣れない品がメニューにあります。佐賀県は有田の郷土料理で、豆乳とタピオカ粉を混ぜて造るのだそうです。これを甘めの九州の醤油でいただくと、濃厚な、くっきりした豆腐の味がしました。
品書きは定番の煮込み・サラダの類いと、本日できますものが黒板にあります。
「シークワサーもずく」は太めのもずくを使用。シークワサーがちょっと甘いかな。ただのもずくを出さないあたりにこだわりを感じます。
しかしBGMの方はあまりマニアックではない。松原みき、武田鉄矢がかかっております。1970年代テイストですね。
聞くと、ご主人は新宿出身、現在は中野から通っているのだそうです。PM2時~5時がカフェ、PM5時半~12時がバーの2部制。
ここでいよいよ当店の看板メニュー、塩煮込みと行ってみましょう。とろろと柚子胡椒、やはり味が平板にならないよう気づかっているみたい。出汁もよく出ていて、実に酒に合います。ワタシは伊佐美の水割りにしよう。
「煮込みだと、煮るだけでしょ」とご主人。牛すじ煮込みは味濃い目。といってもこれだけしっとりと煮るのは大変だ。煮込みで5日かけるとか。毎日火を入れることで菌を消す、しかも味が深くなる。ということは、保存にも味にもプラスに働く一石二鳥が煮込みなのですね。刺身なら保存がきかないんだから、メニューも増えてこれはいい。
さらにメニューを見ると、カレーライスもハヤシライスもある。「名古屋だと牛すじ煮込みにご飯かけますよ」とご主人。カレーという煮込みをご飯にかけるという解釈か。それじゃあ麻婆豆腐もアリなわけだ。
ここでカナコ嬢に電話がかかってきた。原稿書きの用があるらしく、本日はこれでお開き。
立って振り返ると、チャーリーパーカーやオードリー・ヘップバーンの絵がかかっている。
隣はカップル、後ろは女性独り。
謎の隠れ家かと思いきや、汎用性の高いバーなのでした。
(センセイ)
はじめまして。
阿佐ヶ谷在住2年目のカナコです。
センセイとは、引っ越してきたばかりの頃に中杉通りのポポットで初めてお会いしました(その直前にセンセイの奥様と中央線の中で知り合って、一緒に立ち寄らせていただいたのでした)。
あれから1年。ある晩ひねもすのたりで近所のKさんと飲んでいたら、センセイからお電話が。
センセイ「今日このあと何するの?」
私「よるもすにいます」
センセイ「じゃあ取材に行くから」
私「え、いつですか?」
センセイ「今」
15分後、チャリに乗ったセンセイと私たちは煮込みBARを目指していました。阿佐ヶ谷駅から南西へずんずん歩くと、静かな住宅街の裏道にポツンとお店が。さっそくセンセイは取材の鬼となり、表の写真をばしばし撮りまくっています。私もスマホで撮ってみましたが、カメラがピンボケで諦めました(Kさん撮影の写真が美しいので送ります)。
このお店、入り口のたたずまいは純日本風なのに、豆電球でデコレーションしてあるところはフレンチビストロっぽい。引き戸をあけて中に入ると、カウンター5席、2人がけテーブル席2つ、後ろ向きのカウンター3席。やや小ぶりです。
カウンターの中には1人、菩薩のように優しく微笑むご主人が。カウンターに3人横並びで座ると、頭上にルノアールやモディリアーニの絵がずらり貼られているのが見えました。背後の壁にはアメリカン調の油絵と薄ピンク色のシャンデリアも。
BGMは名前を知らない70年代アイドルの歌でした。セーラー服と機関銃(を男の人が歌っているやつ)や武田鉄矢メドレーが続いて、急にノスタルジックな気分に。センセイは鉄矢さんとCSの番組で何度も共演されたことがあるのだとか。
左隣のKさんはバーボン(たしか)、右隣のセンセイは透明のお酒(ハイボールだったかも?)、私は梅酒ソーダをオーダー。お通しがなんだったのか忘れてしまいましたが(すみません)、丁寧に作られている感じでおいしかったです。
続いて自家製ごどうふ。豆乳をタピオカ粉でかためたものを、九州の甘い醤油とワサビでいただきます。佐賀県有田町の郷土料理だそうで、ジーマミー豆腐を彷彿させる美味! 次の生湯葉も肉厚濃厚。
そしてここから煮込みのオンパレード!
大きな軟骨はしっかり煮込まれていて粉々にほぐれます。牛すじ塩煮込みは優しい出汁の味がしみこみ、上にはとろろ昆布がふんわりのって柚子胡椒風味。肉どうふはコンニャクの奥まで味がついて色がすっかり変わっていました。
お店の営業時間は14〜17時と17時半〜24時の2部制。空白の30分はご主人の買い物タイムだそうです。いつも正午から仕込みを始め、3、4日かけてとことん煮込むんだとか。
煮込みBARと名乗りつつ、メニューにはオムライスや麺類も(麺は一応煮込みの部類?)。
インテリアにもメニューにも若干のちぐはぐ感が否めないのが、このお店のいいところなのかもしれません。ご主人の好きなものばかりを集めた結果なのでしょうか。
さて私、格闘家のセンセイとボクシング談義中に興奮して食べ物をのどにつまらせてしまい、息ができなくなりました。辰吉vs薬師寺戦12Rの拳闘シーンが幻覚のように一瞬目の前に見えたりもして、やばい、ここで灰になったらどうしよう、と焦りましたが、なんとか生還。命のありがたみを噛みしめました。
そういうわけで記憶がややとぎれぎみです。センセイ、くそレポーターですみません。
しかも日付が変わる前にシゴトの原稿を送らなければならず、最後までいられませんでした。その無念をひきずって帰宅後、YouTubeで武田鉄矢さんの番組を発見。センセイと内田樹さんがコメンテーターとして出演され、何やら震災後の日本と競争について語っていました。
結局全部見入ってしまい、さらにビートルズのゴールデンスランバーも聴きたくなった。アビーロードに入っています。
「昔は家に戻る道があった おやすみ愛しい人よ、泣かないで 子守唄をうたってあげるから 黄金のまどろみが君の目を満たす そして目覚めたときにはまた笑顔が戻る」という歌詞。
ビートルズ終盤のポールの曲だそうです。
優しげなご主人、湯気たちのぼる煮込み料理、ゴールデンスランバー……。南阿佐ケ谷の包容力満点空間です。ふるさとが恋しくなったらぜひ!のお店です。
(カナコ、30代阿佐ヶ谷新人)
店名: 煮込みBAR ゴールデンスランバー
電話: 03-6279-9715
住所: 杉並区阿佐谷南3-22-2-101
CAFE 14:00~17:00
DINNER 17:30~24:00
火曜休
本サイトでは、対象店舗から異議が出た場合、「センセイ」および「ハヤト」の文章表現を変える可能性があります。
同様に投稿者のコメントも、管理者の判断で表現を変えるか部分的に削除する可能性があります。ご了承のうえ投稿いただきますよう、お願いいたします。
コメントを残す