阿佐ヶ谷どうでしょう。

阿佐ヶ谷のディープな飲み屋~88箇所を巡ります。


和メリカン


センセイのコメント

モンゴル文筆家・カナコさんのコメント


またしばらく投稿の間が開いてしまった。入りにくい店を探してさすらう、第66軒目。それは2024年初夏の出来事だった。

ワタシは毎週土曜日、阿佐ヶ谷の道場で仲間と武道の稽古をしている。終了後は決まって飲み会。その日、パール商店街を駅に向かって歩き、出口に近づいていた。本日はアカマルヤもしくは鳥正かと思っていたところ、右に路地があり、「和メリカン」の看板が目に止まった。1990年代から気づいてはいたものの、駄洒落のような落ちもないような店名に、敬して遠ざけてきた一軒。

「センパイ、覗いてきましょうか」と師範代のOさん。唄、ギター、芝居となんでもござれの元編集者、現在は鍼灸院を営む才人である。言われなければ今回も通り過ぎるところだった。Oさんは階段をスタスタと上がっていった。

しばらくして降りてくる。「センパイ、これは入らないとまずいですよ。見かけ80歳オーバーの御老体が配膳しています」。そりゃ面白そうだとピンときた。ぞろぞろと階段を上がる。

ドアを開ける。ビニールシートが蚊帳のように吊ってある。コロナ対策か。造花が壁にある。なんだかポップアートのよう。

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「いらっしゃいませー、どうぞー」。かん高い声が上がり、マスクと帽子で顔が隠れた小柄な御老人が現れた。席を指し、メニューを見せてくれる。仲間は生ビールや烏龍茶を注文。ワタシが生レモンハイを頼もうとしたら、お父さんは「わわー」と腕をパタパタさせる。イレギュラーな注文は無理だったか?

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チリビーンズが旨そう。ナチョス、レギュラータコスとそれぞれに頼む。「メリカン」とあるがメキシコ風でもある。まぐろ刺し身もあるから、和風とテックスメックスまぜこぜの居酒屋ってことか。次々に運ばれてくる。カンパーイ。

お父さんは虫眼鏡越しに片目つむってじーとメニューを見てる。トマト・アボガド・カッテージチーズ・サラダも頼んだが。
「お父さん、そろそろ出来ましたか?」とワタシ。
「ひえー、忘れていましたすみません」と親父さん。腕を上げ下げ、膝を空中に上げたり、踊るような不思議な動き。なんだか可愛い。

「お父さん、お幾つでいらっしゃいますか?」
「88なんですよー。息子が経営していて、あたしはいあわせているだけですけど」。
平成何年かに創業して、ずーっと息子さんと二人でやってこられたとのこと。「息子がよくやってくれるんで」。いやいや、看板娘よりも魅力があるお父さんも存在感がありますよ!

 楽しく飲食して、ほんわかした余韻をいただいて店を出た。

・・・・・・・・・

で2週間後、再訪した。同じ仲間とだが、今回はモンゴル語通訳兼ライター、モンゴル業界にこの人アリと知られるカナコさんにも声をかけた。モンゴルと行ったり来たりしているらしいが、時間があるときに感想を書いてくれると有り難いな。

お父さん登場。マスクに帽子は同じ。
「お父さんに会いたくてきたんだよー」、とワタシ。「お父さんのファンになりました」。
「いやー、勘弁してよー。でもすごい嬉しいー」と親父さんは両手上げ下げし、「わー」と騒ぐ。相変わらず可愛い。来た甲斐あった。

メニューをじーっと見てる。突如、お勧めが始まった。その中からサラダをいただく。ビール、ワイン。あと今回はぺぺロンチーノのアメリカンがいいかな。

「はいありがとうございます!」とお父さん。ひょわ、ひょわみたいな声で、「それがいちばん!」と。カナコもキョロキョロ見回している。
ワインをデキャンタで注文、今夜ものんびりと夜が更けていった。

 「親父さん、いつまでも頑張って下さいね」。我々は固く握手をしたのだった。

・・・・・・・

それからの土曜日、毎週のように商店街から店舗を覗いてみたが、なぜか夏場はずっと閉まっていた。暑いからかなぁ?この夏は高齢者には辛いかも。

そして晩秋のある日。やっと開いていた。いこうよ、と仲間とともに階段を上がる。ドアを開けたが静かだ。「やっていますかー」と何度か声を掛けると、頭巾をかぶった息子さんがキッチンの奥から出てきた。

 「お父さまは?」
「・・・親父は亡くなりました」。
なんと。閉店期間の長さがいささか気にはなっていたが。

思い返すと、天使のような不思議な方ではあった。阿佐ヶ谷の夜に降り立ったご高齢の可愛い天使。

親父さんのいないこの店は寂しい。それでもこの日は3-4名の女性グループが2組、ワインを囲んでワイワイやっている。店内は広いので、仲間と楽しむのには向いている。息子さんの代になって、この不思議な店は新しい展開を迎えるのだろう。親父さん天使、ずっと空から見守ってあげて下さい。

「怪しいところ見つけたよ」

センセイからのお電話で、久しぶりに出陣。場所は阿佐ヶ谷駅からほど近い、パールセンター沿いだという。そんな好立地に、まだ開拓されていない店が残っていたとは! 

阿佐ヶ谷住民なら、きっと何度も横を通りすぎているはずの「和メリカン」。サンマルクカフェの向かい側の看板を私も見かけてはいたけれど、店に入ろうとしたことはなかった。



扉の横の外壁に、メニューが貼ってあるので眺める。値段があちこち手書きで直されていたり、各料理に添えられたキャッチコピーが昭和な雰囲気だったり、「和メリカン」の名前のわりにメキシカン系の料理が並んでいたりして、独特の意思を感じた。

2階へ上がると、奥のテーブルにセンセイを発見。練習後だという格闘技仲間の皆さんも一緒で、和気あいあい。私もビールでカンパイ! 



このときオーダーをとりに来てくださった男性の愛らしさが、印象的だった。厨房で働いていらっしゃる店主のお父さまだそうで、88歳と聞いて衝撃を受ける。生涯現役、かっこいい。

お父さんの服についた洗濯バサミが気になり、伺うと、紐の先に虫眼鏡。文字が読みにくいとき、この虫眼鏡が活躍する。そしてお父さん、ファッショナブルなのだった。



メニュー選びは道場の皆さまにお任せで、私は食べてばかり。楽しい時間が流れる。オーダーするたび、お父さんと話ができるのが嬉しい。



私たちが帰るとき、お父さんは1階まで降りて見送ってくださった。一同すっかりお父さんファンになり、店を後にした。



その後、店への再訪を試みたものの、私が通りかかる日はいつも休みの貼り紙が。

そうしているうちに、このレポートを書かないまま1年半もの時が流れてしまった。そして信じがたいニュースを耳にする。お父さんが天国へ行かれたのだという。いまになって、あの夜を早く記事にしなかったことを悔やんでいる。お父さんの可愛らしさが忘れられない。

店で撮らせていただいたお写真を、ここに残しておきたい。




お父さんのいない「和メリカン」にまた行ってみようと思うものの、私のタイミングが悪いのか、開店の日になかなか遭遇しない。しかしお店はいまも営業されているようなので、お父さんの残像を求めて、しつこくトライしたい。

ごちそうさまでした! どうもありがとうございました。


Shop Information


店名: 和メリカン

電話: 03-3318-6989

住所: 東京都杉並区阿佐谷南2-16-4 サワノビル 2F

Web: https://x.com/wamerican_asaga


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