26軒目。
ワタクシ、阿佐ヶ谷在住17年になるんですが、うかつにもここの存在には気づかなかった。開店して34年になるというのに。ママが美人なのに。
というわけで、「ぱすてる屋」です。ここは入りにくい。雰囲気が、じゃないです。なぜって、飲み屋と気づかないから(俺だけか?)。
南阿佐谷、産業会館通り。つまり阿佐ヶ谷駅から中杉通りを南下して、ラーメン屋(現在は「豚骨番長」)とクマリの角を右折。ずっとず~っと歩くと右に寿司屋や弁当屋があり、そこを右折。二軒目に、ぼ~っとした灯りに半ドアが開いています。ワタクシ、これをずっと民家だと思ってた。
入り口には掲示板が出ています。ナニナニ、「個展、グループ展の会場として無料でお貸しします」。
ということは、アートに携わって雌伏している方が発表できる場ってことですね。
入ると広めのカウンターが。この内側に白いニット帽子にめがね、赤いネッカチーフの女性が煙草を吸っています。「Stardust」のママもこの世とはおさらばされたし、こういう存在感のある年上の女性はなかなかいません。口元のほくろが理知的というか、色っぽいというか。
入り口左手には、永島慎二の「黄色い涙」タッチの少年の絵がお出迎え。背後には、徳島鳴門海峡のうず汐写真が何枚か。これが個展ということですね。「こちらは年にいっかい個展をやる方で、脳梗塞で身体が不自由なのにここまで写真が撮れるようになられたんですよ」。
奥にはねぶたの写真が三枚。なるほどアートな空間だ。
あんまりお酒の種類とかあるわけじゃなさそう。でも眼前に梅酒がある。それをロックで。手作りという。
お通しは煮た鰹にゴマのかかったもの、貝割れとたまねぎとトマトのスパゲティー。きっちり作ってある。何かにつけて手をかける作りということでしょうか。
ラジオでJWAVEがけだるく流れている。静かな時が流れていく。
ドライフラワーや唐辛子、アートな目の前に小物が下がっている。永島慎二が描いた阿佐ヶ谷で、一人住まいの女性の部屋を訪ねたらこんな感じだったのかな。これまた「美代子阿佐ヶ谷気分」というか。ガロの世界だ。
そういえばワタシがこの店を知ったのは、ガロの後継誌「架空」にリスカが題材の漫画を書いている「勝見華子」が教えてくれたから。華ちゃんに漫画を書いてもらって右のハヤトの欄に載せよう。
「むかしは昼もよるもやってましたけどね」。そうなんだ。夜って限った店の体裁じゃないから、飲み屋らしく感じず前を素通りしていたのかな。客層を聞くと、うさぎやの脇の大提灯米店のおじさんなんかが来ている。あそこも米屋なのに、絵の個展に店内を貸してる。七月は、勝見華子展だったのだ。なんかつながってるな。
「ちょっと店番していて下さい。煙草買ってくる」とママがいなくなった。客はワタシ一人である。やはり雰囲気ある人ではあるね。
入れ替わりに別の女性が入ってくる。「いらっしゃい~」。いちおう店番だからな、私。
しばらくしてママが戻り、「姉です」とご紹介いただく。なんだ、お店側の方だったのね。静岡から、中村紘子のコンサートを聴きに上京した帰りなんだそうな。
どうぞ、と静岡名物の釜あげしらすとさくら海老を出して下さる。お姉さんのお土産だ。これはビールに合うな。
ラジオでは、大駱駝館の人がお化け屋敷の話をしている。まあ、どうでもいいんだが。
トイレに立つと、中には風にそよぐ杉の絵がかかっていた。Kayoko.Sのサインがある。ママの名らしい。
阿佐ヶ谷の夜に、ゆるゆるとした時間が流れていく。いつまでも青春な感じ。そんな時間を過ごしたい方は、どうぞ。
(センセイ)
中杉通りを阿佐ケ谷駅から南に向かい、美容室とラーメン屋の角を荻窪方向に曲がると、イタリアン、カフェ、和食、居酒屋等の飲食店やネイ ルショップ、陶芸教室、アクセサリーショップ、タイマッサージなどの店が続く、この通りは前から気になっていた。
最近も新しい店ができてちょっといい感じの通りになっている。その店が途切れたあたりの住宅街に、「あら、こんなところに何?」という感じで、「パステル屋」は現れる。
入口は開け放たれていてカウンターは見えるが、場所柄、ふらっと立ち寄るというより常連さんのいく印象で何も知らずに入るには勇気がいるだろう。
オーナーらしき女性は、ベレー帽を被りアーティスティックな雰囲気。それもそのはずで美大出身の画家なのだ。特に愛想が言い訳でもなく、かといって無愛想でもない、嘘は言わないというような表情で迎えてくれる。
カウンターに座り、何種かのアルコールから私は梅酒を注文。ママ手作りの突き出しは日替わりのようで、今日はママの出身地静岡土産の釜揚げしらすに桜えび、静岡とは無関係の帆立の刺身。
壁面は無料のギャラリースペースになっているらしく、写真や絵画など二週に一度の展示換え。その日は写真を展示していたが、画鋲で貼ってあるだけでもう少しプロっぽい展示の仕方があるのじゃないかと思う。
ここで三十年以上も店を構えているらしく、阿佐ヶ谷のことは色々詳しい。多くは語らないが、阿佐ヶ谷のことだけなく人生経験も豊富そうだ。
飲食店には、色々なウリというものがあると思う。食べ物、インテリア、音楽だったり。ここは、一見アート飲み屋という雰囲気だが、ウリは何よりオーナーのキャラクターだ。一人で、悩みの相談に占いの館にでも行きたいと思ったような時には、ママがその悩みを聞いてくれて的確な答えをくれそうだ。
帰りがけに、「これ、食べてみて、ごはんと」と静岡名産のかつおの塩辛をお土産にいただいた。これじゃ、商売にならないでしょうと思わせるが、親戚のオバの家にでも遊びに行ったような和やかな気分にさせてくれること請け合い。
(50代カフェ経営女性)